十六夜残月抄
四の巻

こういう卑劣な手を使う輩に弱みを見せたらいけない。
そう信じる速女は媚薬にとろけそうな裸身をもてあましながらも気高さを失おうとはしな
い。

「卑怯な薬を使った上にか弱い女を縛り付けないと女の子をモノにすることもできない
の? これが悪名高い幻老斎とは情けないわね」
「速女ちゃんのどこが、か弱いというのかなあ? もしかしてここのことかな? 」

幻老斎はめいっぱい開かされた太股の肉付きを確かめるようにしてまさぐっていく。
しっとりとした感触が指先に心地よい。

「くくく、強がりはやめてもらおうか、お嬢ちゃん。あの媚薬をこってりと盛られた上で
責められたら、お前は情けない声で泣くしかないのだからな」
にんまりと不遜な笑みをこぼす。
お前の負けだ。
どんなことがあろうと...
しかし速女は臆する気配は無い。
「だ、誰がそんなことするもんですか。 お前なんか殺してやる! 」
「ふん、この期に及んで威勢がいいのは誉めてくれるが、完全に抵抗を封じられたその身
でどうやってわしを殺すのかな? 笑止な。どれ、軽く相手してやろうか...もちろん
お前の好色な身体にはとびきりの色責めをしてやる。くひひ...せいぜい受身をとるの
だな。まあ、それしか今のお前にはできんじゃろうが」
「ふざけないでよ! あんたなんかに簡単に屈するもんですか!」
「まあ、そう言うもんではない。たっぷり気分を出して甘い樹液を吐き出すんだよ」

ふざけた調子でからかってみる。
速女の小気味良い抵抗がうれしくてたまらないのだ。
あの薬を用いられて堕ちなかった女はいない。
最後は淫液を垂れ流して全身汗みどろになりながら泣いて許しを請うのだ。
それゆえこれだけの自我をまだもちえるのはさすがといえるだろう。
しかし、しかしだ。
その裏側では確実に甘美な誘惑が速女の健全な肉体を蝕んでいることだろう。
あの上気した顔をみよ。
汗のにじませ上下に息づく白桃のような胸裂の隆起。
屈辱の証しを止めど無く分泌する最奥の秘裂。
生意気な女ほど屈伏させる楽しみも増すというものじゃ。
手によりをかけてお前を追い込んでいってやろう。
じっくりとな...ひひひ...

「では、口でも吸ってやろうかのぉ。こっちを向いてみい」
あごを持って速女の顔を無理やり自分の方へぐいと向けさせる。
間近にせまる幻老斎の口から生臭い吐息が顔にかかる。
首をゆすったときに広がった髪が妙になまめかしい。
忍とはいえ、甘い女の体臭のようなものが辺りに拡散していく。

断固として拒否しているように見え、速女の考えていることは別にあった。
幻老斎が舌を入れてきたが最後それを食いちぎってやる。
この身が崩れる前になんとか片をつけなければ....
かつて体験したことのないような肉体の裏切りの前に、焦燥に刈られる速女だった。
さあ、速くその汚らわしい舌をあたしの中にねじ込んでみなさい!

しかし、幻老斎はすっと顔を引いていく。
感づかれた?
いや、そうではないらしい。楽しみは最後までとっておくつもりなのだ。
なんていやらしいやつ。

「ヒヒヒ...力ずくで無理やりというのも無粋じゃからな。お前の方から欲しくなるま
で身体中をわしの唾液で汚しぬいてやるわ。匂いが身体の芯まで染み込むくらいにな。
クヒヒ、時間はたっぷりあるからの。ほっておいても先ほどの媚薬が時間とともにお前の
官能を追い詰めていってくれるからな。たっぷりもだえるんじゃぞ」

そう言うが早いか、なんと速女の鼻の穴に舌を差し入れ、舐り始めた。
突然のことに何の身構えも取れない。
鼻腔から思い切り老人特有のすえたような悪臭を直に吸い込んでしまう。
思わず吐きそうになる気分が悪さだ。
あまりのことに咽び泣きそうになる。
な、なにをするの?いったい...
逃げ出そうにも全身緊縛された状態で、顔はがっちり腕ではさみこまれて動かせない。
そこにまるで何かにとりつかれたかのように舌を這わせる、いや狭い鼻腔にねじ込んでく
るのだ。
鼻の穴を掘り進むようにして、鼻粘膜をけずりとるばかりの蠕動運動。
鼻毛がねっとりと汚れた唾液で光っている。
強制的に老人の腐敗臭をかがされ続けられるつらさ。
しかし呼吸をしないわけにもいかない。
「ふ、ふぐっ、ふごー、うううぐ!」

それにあき足らず、老人は攻撃の矛先を瞼(まぶた)に移す。
たまらず速女は閉じようとするが、これほどの力がひなびた指先に残っていたのと驚くほ
どの力で瞼をこじあけられ、ざらつく舌を内部に差し込まれる。
嫌悪感にあふれる男の舌で眼球をもてあそばれるとは、なんたる屈辱!
しかし今の速女に死ぬことは許されない....
任務を果たすまでは、決して...
「や、やめてよ、もう!」
抗いながらも己の眼球がころころと舌先で転がされているのがわかるだけに、気丈に振舞
うにも限りがある。
目の前を赤黒い、グロテスクな生物が這いずり回り、埋め尽くされていく悪寒。
それに対して抵抗すらできないという情けなさ。
いやだ。
こんなのは!
速女のまなじりからは、涙と幻老斎の唾液が交じり合った液体がつーと零れ落ちるの
だった。

しかも先ほど卑劣な薬を使われたため、秘唇からは心とは裏腹に匂いたつような女の芳
香ともいうべき熱情の証が沸沸とわきあがってくるのだ。その熱く蕩けそうな感覚は刻の経
過と共に激しさを増し、速女の強靭な精神を揺さぶりたててくる。
しかも肝心な個所はまったく放置されたままなのである。
せつないようなじれったさが倍加される。

はやく舌を突き出しなさいよ。
あなたも催してきてるんでしょう!
そんなところばかり舐められても、気持ち悪いだけだわ。
でも....それ以外のこの感覚....
な、なによ...まさか...そんな...

肉体の変化にとまどう速女の心情には全くお構いなしに、今度は耳の穴をしゃぶりつくし
てくる。たっぷり唾液を注ぎ込み、じゅるじゅる音を立てて吸いあげのだ。

「くくく、速女ちゃんは耳の味もまた格別よのぉ。まるで耳から潮を吹いている様じゃな
いか!」
意味不明な淫猥な台詞を吐き、一人悦にいっている。

勝手なこと言ってなさいよ、このクソじじい!
じろりとにらみつけるが対した効き目はない。
ジリジリと速女にとっては永遠ともいえるような無駄な、そして確実に自分を追い詰めて
いく時間がたっていくのだった。




部屋の片隅で蝋燭の灯りが揺らめいている。
あれからどれだけの時間が経ったのだろうか?
老人の舌による陵辱は全身に及んでいる。
上は耳の裏、首筋、あごの下、鎖骨の盛り上がり、わきの下、腕から手の指の先まで。下
は太股、脹脛、踵、そして足の指の先まで...
全身くまなく幻老斎の舌先が這いずり回り、べとべとに唾液をまぶしこんでいったのだ。
もちろん最初に這わせたところは既に乾いている。
それでもざらつく舌の感触ははっきり記憶されており、腐臭が肌の奥にまで染み込んでし
まったような汚辱感が残る。
取り返しがつかないくらい、自分の身体は汚されてしまったのではないか。
それに先ほどからぼんやりとした不安を感じ始めている。
これだけ全身を舌先で愛撫しているというのに、媚薬でどうしようもなく燃え上がってき
ている肝心な部分にはまったく手を触れようとはしないのだ。
実際尖りたっている乳首と、だらしなく開いている秘唇には指先一本触れられていない。
むしろそうすることによって、狂おしいくらいの焦れったさが湧き上がり、淫術の耐性な
どまるで赤子の肌着であるかのように、より一層の苦悶を味あわせるのだ。

ああ、きっとそうだわ...
大量の嫌らしい薬で煽るだけ煽っといて、あそこには一切手を触れないつもりね...
くぅ、なんて卑怯なやつ....
我慢くらべであたしが根をあげるのを待っているんだわ。
快楽に屈して自分から求め出すのを。
......く...そうは、させるもんですか....あたしの誇りに賭けても!

しかし精神的にはつっぱってみても、肉体は崩壊し始めている。
現に秘唇からはあふれんばかりに淫水が垂れ流され、床をべっとりとぬらしている。
身体は悲鳴を挙げているのは事実だ。
このままでは、後どれくらい持ちこたえられるか....?
まずいわね、全く。
速女はその怜悧な頭脳で考えをめぐらせるが、指の先まで自由を奪われていたらど
うしようもない。
気ばかり焦るだけだ。
無残に開かれた脚をゆすりたるがどうしようもない。

「どうかな、少しは感じてきたのかのぉ。もっともなぜわしがお前なんかを気持ちよくさ
せないといけないのか、わからんがな」
「わからなければ、やめたらいいんじゃない。こっちも頼んでやってもらっているわけで
はないわよ。もっとも身体の隅々まで舐めとってもらって少しはキレイになったかしら?
 」
「上等、上等。まだまだ元気じゃな。さすがは里のものの中でも屈指のくノ一だけのこと
はある。わしも安心して次の責めに取り掛かれるというものじゃ....」
というと、幻老斎は筆先がぼさぼさにばらけた2本の太目の筆を取り出した。

股間の滴りを見れば、こやつの苦悶は手に取るようにわかるわい。
強力な媚薬をしたたか飲まされた上に肝心な部分には全く触ってもらえないつらさ...
わしにもわかるぞ....くくく、じゃから、わかるからこそ楽しいのだ。
お前みたいな男を下僕くらいにしか思っとらんやつが、終いには自分の肉欲の前に屈服し
て、どうわしにお願いしてくるか...考えただけでゾクゾクしてくるわい。
そうしない限りは絶対イカせはしない。
焦らされつづけた挙句、焦燥で悶絶し、頭の中が真っ白になるまでな.....

早速幻老斎は2本の筆を両手に持ち、耳元からくすぐりはじめる。

「くきゃっん!!な、なにするのよ...う、くくく....」
身体がビクビク跳ね上がる。

笑い続けるということは、想像以上に体力を消耗する。
これを続けることにより、速女に残された体力を搾り取り、ボロ雑巾のようにくたびれさ
せ、肉体的な抵抗力を奪い去ることが狙いだ。
いかに鍛え上げられた肉体といえども、体力を削り取られ、疲労だけが渦巻いていてはど
うしようもあるまい。
更に幻老斎の秘術は残酷である。
ただ笑わせるだけではないのだ。
皮膚にふれるか触れないかのところをチリチリとなすっていくのだ。
それは同時に悦楽を呼び起こしていく極上の性戯。
やるせなさが渦巻き、肌の下から性感をあぶりだすような無情な愛撫。
しかもそれは性感を高めることはあっても、決して最後まで許してはくれないのだ。
速女にとっては地獄のような苦しみが倍加されることになる。

あああ、こんな、こんなのって、あんまりよ!!!

心では悲鳴を上げていても口から出てくるのは、だらしない喘ぎ声とも笑い声ともつかぬ
ような嬌声。

「くひ、くひ......、く、くるひぃ....ねぇ、ねぇ、ねへって...あぐぅぅぅぅ」

媚薬に彩られたかのような上気した肌の上には玉のような汗が浮かび上がっている。
瑞々しい肉体が跳ね上がるたびに、その一部が弾けとぶ。
その上をねっとりとした2本の筆が這いずり回っているのだ。
しかし、しかし、しかし、しかし!!!
それでいて双乳と秘裂には一切触れられることはない。

本当にこいつ...私を狂わそうとしているの...?
まだまだ陵辱の宴は始まったばかりだ。

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