十六夜残月抄
七の巻

「ふひひひ、いいことを考えたぞ。お前にいいものを飲ませてやろう 」

嬉々としてそう言うと、先ほどの催淫剤の瓶をもう一本取りだし、その封を切る。
辺りを包んでいる淫靡な臭味がにわかに濃くなったかのようだ。。

それを見ただけで身体は淫らに火照り始めている。
心ではいくら拒否しても、肉体はその味を覚えこまされている。
今、この細身の体を襲っている快感は、間違いなく現実のものなのだ。

いったい何をしようと言うの...

言いようのない恐怖と共に、恥ずべき最奥の秘淵からは、ねちょりと熱いたぎりが流れ落ちる。
これから起こる事を先読みした肉体が、勝手に反応してしまっているのだ。
それに気付いた時、速女は愕然となった。

そ、そんな...何を期待しているのよ...

度重なる責めの前に、肉体の守りはかなり緩くなってしまったようだ。
そんなにふしだらな女じゃないわよ!
美貌をくゆらせながらも、必死に欲情を押さえこもうと太股に必要以上の力を込めるが、閉ざすことの出来ないそこは、ヒクヒクと周辺の筋肉をわずかにひきつらせるだけである。
だいたい内から沸きあがる官能の炎をどうやって消せばいいというのか?

苦悩に身悶えるその裸身を横目で眺めつつ、老人は媚薬の中身を器にあけた。
ツンとした刺激臭がそれから立ち昇ってくるのが嗅ぎ取れる。

「この成分が女を狂わすのじゃて....もっともっと腰がしびれて動かなくなるくらい狂わせてやるからな。お前の女の弱点を徹底的に狙い撃ちして、所詮は一匹の牝に過ぎないことを思い知らせてやるわ! 」

そう言い放つと、器の中に自分の唾を長々と垂らし始める。
先ほどたっぷりと唾液を交換しているはずだが、まだ飲ませ足りないのだ。
それから何を思ったのか下半身を剥き出しにして、ひなびた老人の体とは対照的な怒張を片手で持ち上げる。一皮剥けばエラの下の溝を中心にべっとりと汚らしい恥垢がこびりついているが、構わずそれを器の中に入れ、中で汚れをそぎ落としていくのだ。みるみるうちに液体の中に、老人の最も汚らしい垢が拡散していく。そして何を思ったのか器めがけて排尿を開始したのだ。注ぎ込まれる黄金色の液体は、ドロリと渦巻きながら媚薬と混ざり合っていく。
最後の仕上げに肉棒で、かき混ぜながら幻老斎は言った。

「ふひひ、わしの匂いがたっぷり染み込んだ特製の活力剤じゃ。遠慮なんかせずに全部飲み干すのじゃ。さすればまた今以上に気持良くなれるからな! 」
「う、うぐ! い、いや、うぐぅぅ、ごぼ、はぁはぁ、い、嫌よ!! あぐ」

吐き気を催すような液体が、いとも簡単に飲みこまされてしまう。
緊縛された上に、鉗口具をきっちりはめられ口を閉じることが出来ないからだ。
喉を再び伝う悪魔の液体。
しかも老人の体から出た排泄物まで含まれているのだ。
直ちに胃が戻そうとする。害をなすものは排除するという生まれながらにして身に付けている本能的な防御作用だ。

しかし、先に老人のほうが動いた。
鉗口具で開かされた口に蓋をしてしまったのだ。
それはぴったりと寸分の隙間もなくねじ込まれ、強烈な栓の役割を果たす物だった。
しかもその形状が速女を苦しめていく。
口を閉ざす栓は、まがまがしい男根を真似て作られており、先端が喉奥近くまで到達する巨大さなのである。口内の圧迫感。それに擬似とは言え、口に男性器をくわえ込まされているのであるという嫌悪感。

そして残酷にも金具で固定される。
これで速女は飲み込んだものを吐き出すことは出来なくなった。無理にしようとすれば窒息の恐れすらある。

「簡単には吐き出させないよ。じっくり味わってもらわないとねぇ。もっとも薬の効き目はすぐにあらわれるじゃろうが...」

老人は既に桜色に染まり、体中の水分を絞りださんばかりに反応して陵辱の時をひたすら待ちわびる速女の肉体を頼もしげに眺めている。
この状態で更なる媚薬を飲み干せばどういうことになるか...
後はこの肉体が、己が精神を追い詰めていくのを待つだけだ。

熱い、熱いわ...
一方の速女のほうは、早速効き目を見せ始めた媚薬が与える新たな性感の高ぶりに窮していた。
ずきんずきんと体の奥が痺れ、甘いうずきとなって襲いかかってくるのだ。
しかも汚物を飲みこまされた胃はたぎるようにのたうつが、口にはめられた栓が邪魔をして吐き出すこともままならない。
このままでは、骨の髄までいいようにもてあそばれてしまうわ...
速女はなんとか拘束を解こうとする。手足の痺れはかなり薄らいできているが、二重三重にされた縄がけが体の自由を完全に奪っているのだ。後ろ手に高々と括りあげられた両手は、いくら力を込めようともびくともしない。更には乳房を上下から厳しく締め上げている荒縄のざらついた感触。長年に渡って使い込まれたそれは、けばが肌に当って痛いということはない。逆に程よくささくれているそれが、しっとりと肌になじんでくるのだ。しかも苦悶の汗を吸い取り、どす黒く変色した縄はぴったり皮膚に張り付いて、ギシギシと締め上げてくるのだ。
完膚なきまでに緊縛され、強力な媚薬を大量に飲み込まされる。
その上に眠ることも許されず、ネチネチと最も苦しい焦らし責めを受ける.....
このまま続けられればいかに強靭な精神力を備えた速女といえども、いつまで平常心を保ち得るのか自信はない。しかも最後の暗殺の手段まで奪われてしまった今、何に希望をつなげばよいというのか?
ちらりと幻老斎を流し見る。
あの狂気にとらわれた目。あれを一目みれば老人が並みの責めでは到底満足できない根っからの嗜虐者であることは充分推察できる。
女を弄び、羞恥にのたうちまわらせ、気が狂うまで責めなぶる。それでようやく欠けた心の一片が埋まるのではないか。しかしそれも束の間のこと。狂った心はそんなことで満足することは、ないだろう。
しかし...
重罪人のごとき縄目は緩む気配すらない。気持ちは焦るがどうしようもないのだ。

「さあて、そろそろこれが欲しくなってきたのかな? 」

老人は股間の逸物を指差す。準備万端の感があるそれは、天に向かって雄たけびをあげんばかりに反り返っている。

顔を傾け、薄目を開ける。
否応無しにそれが目に入ってくる。
それを見つめる速女の中で嫌悪感以外に、女の本能とも呼べる痛切な悲鳴が沸きあがっていくのだ。
ああ....欲しい、と。
それが恐ろしかった。
そんなものを見て感じてしまう自分の身体が呪わしかった。
只でさえ媚薬で狂わされ、焦らしぬかれた身体だ。
流れ落ちる脂汗と股間からしたたり落ちる多量の淫水が、その苦悶を如実に物語っている。
しかし、しかしだ。
だからといって欲情に流されるまま、命を奪いに来た敵に身体の火照りを抑えてくれなど、どうして頼めようか?
このあたしに、腰を振りたてて物乞いしろというのか?
この卑劣な老人の思うがままに!
出来ぬ、出来ぬぞそんなことは!!

欲情に蕩けそうになりながらも、首を横に振り屈伏を拒む速女。
その眼には涙まで浮かんでいる。
悲壮な決意を強いられる悔しさのためか...それとも身体の奥底から沸きあがる官能に耐える苦しみか?

簡単には陥ちぬか...いよいよ面白くなってきたな。
老人は含み笑いをする。
再び奥の方から、すり鉢に入った不気味な物体を持ち出してくる。
物体...いや、動いている。それは生物に違いない。
一見すると骨が無く、まるでクラゲのようだが、それにしては形が妙である。
身体のいたるところから小さな触手がひしめくように生え、空気を求めるようにうごめいているのだ。
一体これは...?

「ふふふ、これは先日呼び出して飼っておいたこの世にあらざるものじゃ。淫盲虫とでも呼んでおこうか...これはな、人を狂わせる特別な体液を持っておるのじゃ。とびきり淫らにな..ひひ。見てみぃ、いい色しておるじゃろう? 」

すりこ木で中身をすり潰しながら速女に見せ付ける。不気味な灰色をした液汁と虫の残骸がドロドロに交じり合っている。

「並の女子には10倍くらいに薄めぬと精神に異常をきたすかもしれんがの...お前には今まで頑張ってきた褒美に原液で塗りたくってやるわい 」

ああ、只でさえ耐えきれないくらいに火照っている身体にこれ以上何をしようというの?
思わず顔をこわばらせる。
目聡くそれを見た老人は、迫るその手を止めてこう提案した。

「うん、さしもの速女ちゃんもこれは少しばかりつらいかもしれんて。そうじゃ、わしと一つ勝負せぬか? お前が勝てば、このまま帰してやってもよいぞ。もし負けたらおとなしく原液を身体のあらゆる所に塗りたくられる。 悪い話ではなかろう..くひひ 」

黙ってこのまま帰す気のないことは、はっきりすぎるくらいわかっている。
こんな時に一体何を言い出すのよ...
老人の底の見えない態度は、速女にもはかりかねている。
老人の眼の残酷な光を見れば、またろくでもないことなのだろう。
全くどこまで責めれば気が済むのだろうか?
いや、それはわかっているのだ。
この鍛えぬかれた体が肉欲に粉々に打ち砕かれ、恥も誇りも捨て去って「早くイカせて!」と泣き叫ぶのをひたすら待ちわびているのだ。
確かに肉体は快楽に狂わされ、制御を失い暴走しつつある。
これ以上あんな体液なんか塗られればそれこそ致命的だろう。
後は精神の崩壊か...
確かに一時的には弱音を吐いたことはあったが、まだ完全に幻老斎の軍門にくだったわけではない。
速女は己に強く言い聞かせ、信じこませる。
いや、信じこませたいのだ!
全てをあきらめたらそれで終わりよ....
今は耐えるのよ...
例えこの身が砕け散ろうとも!!!

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