「では、こちらへ来てもらおう...」
幻老斎は、身動きのとれない速女を軽々と抱えあげ、どこかに運んでいく。
汗で濡れ光る肌が、老人の皮膚にピッタリ吸いつくように合わさり、そこからぞわぞわと悪寒が這い登る。
歩く度に、幻老斎の体の動きが皮膚を通じて伝わってきてしまうのだ。
それがなんとも言えないくらい気持ち悪い。
外は完全に日が昇っている。もう昼過ぎというわけだ。
思い起こせば速女が、この館に潜入し囚われの身となってから、もうかなりの時間が経つ。
その間休むことも許されずに過酷な責めを次々と受けさせられてきたのだ。
疲労も頂点に達しているような体に更に加えられる責めとは一体....
速女が案内されたのは、妙に薄暗い部屋だった。
そこには、所狭しと怪しい小道具が並べられている。
それらが、女の肉体を責めるために考え出された忌まわしきものであることは、薄々想像できるのだ。
くっ、こんなものまで用意しているなんて....と速女は思わず歯噛みする。
老人は、そのまま速女を、木馬の上に乗せあげ、足を縛っていた縄を一旦緩めてしまう。
そしてすぐに太腿と足首を一定の長さに保ったまま、縄で結わえ付け始めるのだ。
これでは膝を伸ばそうとしても中腰にはなることはできるが、完全に立ち上がることまではできない。
狼狽するまもなく足首を木馬の側面に突き出た金具に頑丈に固定されてしまう。
そうした中腰の無理な姿勢で立たせたまま、老人は木馬の底に開いた穴から、見るからに巨大な張形を刺しこんでくる。
そのまま速女の股間めがけてズリズリせりあがり、秘唇の入り口に軽く吸いこまれてしまうのだ。
くぅぅぅ!!!!
初めて急所に加えられる刺激に、過剰に反応する肉体。
しかし入り口付近で軽く含まされているだけのそれは、なんとも焦れったい感触しか与えてくれないのだ。思わず腰をもじつかせている自分に気付き、頬を染める。
緊縛されながらも胸を仰け反らせ、木馬の上に震えながら立つ美女....
猛々しいまでに匂い立つ色気。
実に扇情的な眺めである。
「どうじゃ?もうたまらぬか? これから行う勝負とはずばり我慢比べ。お前の真下にはかねてより所望しているものが置かれておるのがわかるだろう。欲情に敗れてその上に、腰を落としたらお前の負け。淫乱なお前にお灸を据える意味でも先ほどの原液を塗りたくって更に悶絶するような責めを続けてやろう。逆にその姿勢を維持したまま、1刻(約2時間)我慢できれば、お前の勝ちとしてやる。もちろん疲れ果てて膝を落としてもお前の負けじゃぞ。 」
一刻....これから考えると気の遠くなるような時間だ。
既に、くたくたにくたびれ切った肉体は、この無理な姿勢に早くも悲鳴を上げ、体の重みに圧迫された膝はガタガタと震え始めている有様なのである。
それに、秘裂から沸き起こる甘く、そしてせつないうずき。
なんとか張り型を引き抜こうとしても、足縄にそこまでの余裕は与えられていない。
しかも下手に抵抗すればするほど、潤みきった肉壁をこねくりまわすように絶妙に計算されているのだ。官能を発火させ、より強い刺激を求め肉体が、わななき、うねり狂い出すように。
もっと強く...もっと深く...
既に腰が発火したかのように熱を帯びている。
打って出ることの出来ない速女は自然に反応し始めるのを必死になって食い止めるしか手はないのだ!
こふ!...もう、あふれそう...でも、ここでは...
そんな速女の苦悶をあざ笑うかのように、幻老斎はニヤついている。
幻老斎を横目で捕らえながら、速女は考える。
このまま、官能に身をまかせて、腰を落として張り型を銜え込んだりすれば、それ見たことかと嘲笑する気なのね...
それはわかりきっている。わかりきっているからこそ、それは出来ない。出来ないのだ!
裸身を震わせながらも、なんとかその姿勢を維持しようと速女は懸命である。
憎悪に燃え滾る瞳を幻老斎に向けてくるのだ。
そんな速女の苦闘ぶりをいとおしむかのように目の端でにやりと笑い、「このままでは、全然面白くないのぉ。どおれ、もちっと負担を増やすか」、と言うと側に立てかけてあった石柱を手にする。
重さは十貫(一貫は約3.75kg)はあろうか。
ひーひー言いつつも持ち上げ、速女に背負わせてから新たな縄で縛り付け、更には先程よりも小ぶりな石柱をもう一本取りだし、今度は太腿に乗せ上げるように固定するのだ。
今や細身の体には十五貫にも及ぶような重荷を負わされているのである。
「これくらいで勘弁してやるか。よいか、今から一刻じゃぞ。決して膝を落としてはならぬ。そうすれば原液責めが待っておるからのぉ....もっともそれを味わいたいなら話は別じゃがな」
口元を歪めて淫猥に笑う老人。
その一方で速女は、ギシギシと縄目をきしませながらも屈辱に耐えていた。
ひ、卑怯者....
それから半刻は経つだろうか...
額にびっしり浮かんだ苦悶の汗が、滴となって頬を伝う。
また一筋。
今度は、眼に入る。
体から搾り取られた塩分のせいか、目にしみて痛い。
奥歯を噛み締めている音がギリギリと聞こえてくるかのようだ。
先ほど見せた鋭い眼光は、今は影を潜めている。
眉根を寄せ、時折荒い息をあげる汗水漬くの女体。
速女には、もはや一刻の猶予も残されてはいなかった。
もうどれくらい経ったの....時間は...
う、うぐ...でも...膝が、もうもたない!!
くふっ! あああ...重い...
でも、なんとか耐えないと...くうう...
酷使されすぎた膝、張り詰めた太腿の筋肉、突っ張った脹脛、全ての重みを一点で支える足首...そのいずれもが限界点を超えようとしている。
それに加え先ほどから張り型が気になってしょうがないのだ。
動かないから耐えられるという読みは、どうやら甘かったようだ。
今では逆に動かないということが速女を苦しめているのだった。
催淫作用のせいで体は、より強い刺激を求め続けるのだが、木馬の上に固定された張り型は決してその欲求を満たしてはくれない。速女が自ら腰を使わぬ限り...
もちろんこれも老人の邪悪な姦計の一つであった。
肉体はいくら反応を見せても、精神を組み伏せない限り、真に屈伏させたとは言えない。自らの淫らな欲望に屈し、張り型を銜え込むときこそ、精神の鎧がまた一枚剥ぎ取られ完全な屈伏に一歩近づくのだ。
ギシ....
膝が重みに耐えかねて下がっていく。
じゅる....
下がった分だけ自動的に張り型が体内に吸いこまれる。
あああ...う...だ、駄目よ...
唇を噛み締めて、なんとか自分に言い聞かせようとする。
しかし身体はもはや制御できない。いくら力を込めても身体を足上げることは出来ないのだ。まるで石化でもしたかのように硬直したままなのである!
ずぶっ
またしても張り型が沈み込んでいく。
いや!いやよ...いや!
あまりの惨めさに、首を打ち振る。
そうした所でどうなるものではないことはわかっている。わかっているがやらずにはいられないのだ。
身体をなんとか上に押し戻そうとしてみる。が、まるで強烈な重力に押し付けられたように動けない。それは泥沼から這い上がろうとするが、得体の知れない何本もの手につかまれて抜け出せないときのあがきにも似ていた。身体は泥に沈む一方。そのうち首から上も泥の中に埋まってしまう...
ずりゅぅぅ.....
まただ。
その度に張り型が火照りきった肉壁をこれでもか!と擦り立ててくるのだ。
あまりの刺激に、速女の官能は壊れそうになる。
今までお預けを食らっていた分、ドロドロに煮えたぎるような欲望が速女のしなやかな身体の中にあふれんばかりに渦巻いていたのだ。
でも、だからといって....女の性とはこんなに悲しいものなのか.....
それを速女はいやというほど味あわされているのだ。今、まさに今!
自分が女の弱さを持っているなど、到底認められるはずもない。当たり前だ。
しかし身をもってじっくりとそれを教え込まれている現状をどうすることもできない自分。その不甲斐なさ。更には上辺では否定してみても、心の奥では”感じている”自分を密かに認めはじめているという矛盾。
そ、そんな...
ぐぶっ!
ああああ...
与えられる快感にどうすることもできず、速女は唯一自由を許された首をのけぞらせる。くっきり浮き出た鎖骨が、汗に光ってなんとも艶かしい。
もう、限界..だわ...
強靭な精神力に支えられてきた脚も、遂には崩壊が始まる。もはや耐えられない!
ガクっと両膝が崩れ落ちる。それとともに身体の奥へ張り型が吸い込まれていった。
敗けた...
しかし速女の頭に有るのは次に与えられる凄惨な責めよりもむしろ、身体の奥まで張り型で突き上げられた時に与えられる悦楽であった。あまりにも大きい敗北感より目の前の快楽をむさぼることで心の均衡をはかろうとする持って生まれた防衛本能。
すさまじい勢いで肉の壁をこすり上げられ、太いもので膣の中を埋め尽くされる快感...とりあえず、イカせて!
しかし速女が木馬の上に座り込んだとき、そこにあるべきものが無かったのだ。
すっぽりと抜け落ちた張り型は、淫液に濡れ光ながら無情にも床に転がっている。
ど、どうして....?
「ふははは、何やら不服そうな顔をしておるのぉ。お前を簡単には楽しませはせぬ。張り型には細工をしておいたのじゃ。木馬の上に座り込めば、抜け落ちるようにな。ふふふ、お前のような極上の獲物は決してイケぬ無限地獄でのたうちまわるのがふさわしい...。勝負は勝負でわしの勝ちのようだな。では約束どおり原液責めをしてやるか」
極めて残忍な眼をしてうれしそうに話す幻老斎を、木馬の上でぐったり倒れこんだ速女はぼんやり眺めていた。まるで他人事のように聞こえてくる言葉を聞き流している。
もはや抵抗するだけの体力は、ひとかけらも残されていなかった。
壊されてしまうわ...