十六夜残月抄
十の巻

無限とも思われる時間が経った。
速女の口を吸っていた幻老斎は、そこでようやく唇を離す。だらりと唾液が糸を引いていく。

「どうじゃ? 何か言いたそうだな? 」

速女は一瞬躊躇するが、すぐさま肉体が戦慄きはじめるのを押し留めることはできない! 全身到るところは、依然として何人もの幻老斎に玩弄されており、そこから屈伏を促す快楽の熱波が速女に襲いかかるのだ。たちまち理性が遠のいてしまう。

「お、お願い...もう...」

「もう、なんじゃ?」

意地悪に幻老斎は尋ねる。

「本当に気が狂ってしまうわ...もう、もうダメなのよ! 耐えられないのよ! 降参、あたしの負けだわ...もう、もう許して!!」

自分の全てをさらけ出すように、速女は一気にまくしたてる。
己の負けを認めるということ。それは速女にとって死ぬことよりもつらいことのはずだった。
でも、それならいったいどうしろというの? あたしにどうしろというのよ!!
声を上げて叫びたかった。何もかも忘れて泣き喚きたかった。
いくら鍛錬を積んでいるとはいえ、生身の女。おのずと限界はある。
不眠不休で一昼夜にわたるこの世の物とは思えぬ色責め。質量ともに尋常ではない激烈な媚薬責め。そんな悪鬼のような責めの前に、聖母然として物静かに微笑んでいろとでも言うの?
そんなの出来るわけ無いじゃない!
敵を倒すまでは自害できないという使命感と、その前では惨めな欲情を曝け出したくないという板ばさみで一種の錯乱状態に陥ったのも仕方ないことだ。速女の頭の中では確実にふりきれているものがある。
形のいい唇をあえがせながら、屈辱のセリフを吐く。そのおぞましさよりも確実に肉欲が上回っている。トロトロの欲情で頭の中が、熱く蕩け切っているのだ。まともな思考は停止しつつある。

「ん?許してじゃと? なんだ、やめて欲しいのか。だったらこのまましばらく床に転がっておるがよい 」

「いやぁぁぁぁぁ!!!!!」

自分でも驚くほどの大声で、首を振りたてながら叫んでいた。もう何もわからない考えられない他には何もいらない欲しいのは....

「もう我慢できないのよ、ねぇ、お願いよ、これ以上焦らさないで、ああ...ねぇ最後まで、後生よ、最後までしてよ! 」

目の前がグルグル回る。目の前の幻老斎もよく見えない。視界がぼやける。
涙...ボロボロと瞳から零れ落ちる大粒の涙。
いつの間に、私は泣いていたの? 心の均衡を保てない速女には、それも分からない。
悲しいの悔しいの苦しいのよ耐えなければならないのでもイキたいの最後までそう気持良くなりたいのよ....

「してよ? お前は人にものの頼み方も知らないのか? 全くこれじゃから最近の若い者は...ええか、こう...」

そう言うと速女の耳元で何やらボソボソつぶやく。それを聞いて一瞬顔を曇らせるが、拒否するだけの気力はもはや残されてはいない。
遂にはゆっくりと口元を開く。

「私は、淫乱で男好きなくノ一です。我慢のできないいやらしい体をしていますので、どうか幻老斎様の珍棒様で、あたしの汚れて緩みきった、おま○こを清めてくださいませ」

嗚咽に顔を歪ませながらも淡々と屈辱の台詞をはく。今の速女には恥ずかしがっている余裕は無いのだ。

「ふひ、ふひひひひ、ぐひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」

最初は満足げにニヤ付いていた老人も最後は腹をよじらんばかりに笑い転げていた。

「そうか、そこまで言うのならわしの珍棒を使ってやらんでもないぞ。ぐふふふふ...昨夜からお前のその艶っぽい体と悩ましい媚態を見ておったら、わしも分身がうずいてたまらんかったわい。何も蛇の生殺しだったのはお前だけじゃないぞ。」

ここで七人に分かれていた幻老斎がまた元の一人に戻る。そうして老人のものとは思えない逸物を再び剥き出しにする。浮き出た血管が蛇のように絡みついているようにみえる隆起は、全く年齢は感じさせない。

「お願い!は、早く!!」

自尊心を投げ捨てて、そんな醜悪な肉塊を狂ったように懇願する速女。かつての凛とした美少女の面影はそこにはもう無い。
老人はここでも得意の残忍さを発揮し、しとどに濡れそぼった亀裂を上下になぞるだけで、簡単には入れようとはしない。

「焦らさないで、もうやめて!!! お願い!これ以上は...は、早く!! 」

あの小生意気な娘をここまで屈伏させたことに幻老斎は感無量であった。
見るがよい、肉体の限界まで責めたてればこの様ではないか! 脆いものよ。この呆けた顔を見るがよい。まるで阿呆ではないか!
では思う存分気をやるがよい。いや、今度は腰が抜けるまでイカせまくってやるわい。イクにイケないのもつらいが、同じくらい息もつかせぬ連続絶頂責めもつらいぞ...

すっかり日が落ちている外は、いつのまにか雨が降り出していた。雨足がやがて強くなる。この天の涙で全てを洗い流されれば、どんなに速女も救われることであろうか。

老人は満足げに笑いながら速女の肉壷に分身を叩きこんだ。
ズブズブと肉のぬかるみに掻き分けながら埋め込んでいく。その中から白濁した愛液がじゅくじゅくと泡立ちながら、押し出される。
くふー、小癪にも締め付けてきよるわい。あれだけ潤みきっておったのにまだこれだけ反応を見せるとは...容貌だけではなく、身体も一流なのかもしれんな。
うむ、なかなかきついわい...うくく、ん?んぐ!!
幻老斎が気付いた時には遅かった。限界を超えて更に締めあげてくる蜜壷は、老人の分身を捕らえてはなさない。焦った老人が腰を振りたて逃れようとしたが無駄だった。
そして次の瞬間、何かが腹を突き破って背中に抜け出していた。
な、なんとこやつ...やはりわしが見込んだだけのことは....お前こそ、わしが捜し求めた....ぐぶ!!!
その後は聞こえなかったが、何やらつぶやきながら倒れこみ、事切れた。

「こ、これは...? まさか女陰棒...」

そのまま速女も身体の力が抜け、床に突っ伏せる。

そういえば、昔聞いたことがある。
里の忍が極限状態に陥ったとき、発動される身体の自己防御機能。脈々と継承されてきた女体の神秘。教わったのはオババであったか...?もちろん誰しもが使えるわけではない。里の中でも選りすぐりの資質を持ったものだけだ。
老人の身体を深深と貫いたのは肥大化された陰核だった。色気にさかる敵を肉壷で逃れないように拘束し、瞬時に肉芽を棒状に硬化させ、腹を切り裂く大技だ。自由に使えるわけではないので速女にとってもはじめての経験であったが、それだけ追い詰められていたということか。
もちろんいいこと尽くめなわけではない。強力すぎる薬には必ず副作用があるように、これにも大きな弱点があったのだ。最も鋭敏な突起を肥大化させるためか、肉体の性感が通常の数十倍に増大し、色責めに対する耐性が極端に下がるのだ。言ってみれば我慢のできない身体になるとでもいうか....しかも一旦肥大化した肉芽が元に戻るまでに約一ヶ月はかかってしまう。しかしそんなことはどうでもよかった。なんとか終わったのだ。今一つ実感は乏しいが、次第に現実のものとなってきていた。

「本当に終わったの...」

速女は床に仰向けに寝転がったまま、ふぅ、と苦悶に満ちたため息をつく。
身体を動かそうとしたが、力がまるで入らない。先ほどの技で残されていた体力全てを使ってしまったのか? まあ、よい。そのまま静かに息づく。

しかし今回は危ないところであった。先刻見せた痴態は、心の底からの叫びであり、ここまで追い詰められたのは、後にも先にもこれが始めてだった。追い詰められた....?そこまで考えてふと問い直す。 いや、あれは充分堕ちていたな。あの時、幻老斎に屈辱の台詞を強要されたとき、あいつに屈伏していたのだ。今思うと恐ろしい。もう一刻もあのまま焦らされつづけていたら、自分の精神は完全に崩壊していただろう。もし、女陰棒が発現しなかったら....そう思うと背筋が寒くなる。
今は冷たい骸となっている幻老斎をじっと見る。老人の顔はなぜか満足げだ。速女のような美女の腹の上で最期を迎えれたからだろうか?
やはりこいつも男には変わらなかったのだな、幻老斎。恐ろしい相手だったがその点では幻滅したと言ってもいい。遊びが過ぎたようね。あたしをもっと速く始末していれば、こんな結末にはならなかったのでしょうに。

もう一度力を入れてみる。少しは感覚が戻ってきたようだ。なんとか大丈夫みたいだな。背中に回された腕に力を込め、縄を解く。責めを受けつづけている間にも、床にこすり付けたりして、少しずつ磨耗させていたのだ。自由になった腕を軽く振ってみる。指先の痺れはなかなか取れない。そのままよろよろ立ちあがってみる。脚縄は幻老斎に挿入されるときに解かれていたので、問題は感じられない。しかし長時間にわたって縄目を受けていた体の節々が痛い。
「全く好き勝手やってくれたわねぇ。血行障害になったらどうするのよ? 」
冗談めかした台詞もいえるくらいに回復した自分を、なんだかうれしくなる。

だがそのとき猛然と、自分がどうしようもなく欲情していることに思い当たった。長時間にわたる戦闘が終わり、その後でふと、そういえば丸一昼夜食事をしていなかったな、と急に腹をすかせるように。意識するほど身体の火照りは燃えたぎってくる。
媚薬漬けにされた身体は、まだ一度も絶頂を許されていない。肉体の奥底ではジンジンとした熱欲が渦巻いているのだ。
尖りきった乳首はヒクヒクと喘ぎを見せているし、肥大化したことにより陰核から与えられる感覚は尋常のものではない。触れてもいないうちから戦慄き、陰核自体にじっとりと汗に似たぬめりを帯びてくるのだ。
まあ、身体が求め出すのも無理はないな、と思わず苦笑する。少しは慰めてやるか...
自然に手は胸と股間に伸びていく。
待ち望んでいた瞬間....至福の時。
胸に手を当てた時、あの苦しい責めから開放された安堵感がじんわりと広がっていった。さわさわと手を動かしてみれば、身体の奥に無理やり封じ込められていたものが、たちまち噴出してくる。ほとばしる快感の熱風!
股間に潜む秘められた花弁。熱く潤みきっていたそれをめくり、少し指を入れてみる。たちまち広がる充足感....もう止まらない!!愛撫を強めていく。

「くは...た、たまらないわ...もう...」

ここが敵の本拠地であることなど、どうでもよい。仮にそうだとしてもこの身体を静めないことにはどうしようもない。
愛撫されることを熱望してやまず、凝り固まったようになっている乳房をやさしく揉み解していく。そうするだけでも、どうしようもないぐらい高まっていくのだ!!股間に伸びた指の動きも自然に加速されていく。

「ああ、もう、もういきそう....」

いつしか胸を揉みこむ手も荒荒しくなっている。秘裂にさしいれた指の数も一本から二本に増える。そして悦楽の頂点に向けて突き進んでいく。どうしようもない、どうしようもないのよ!
いく、いくわ、いってしまう!!!
悦楽の熱流。走り出したら止まらない。この先に長い間待ち焦がれたものがあるのよ! 一気にそこへ突き進む。も、もう少し...イク、イッてしまうわ!!!
そしてまさにはじけようとした瞬間...
ぴたりと腕の動きが止まる。硬直してしまったかのように。
!?

「そんなにあっさり楽しめると思ったら、大間違いだぞ...」

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