ああ、もう、もう、イッてしまう...
すぐそこまで絶頂の瞬間が迫っているのを肌で感じ取っている。ギリギリと身を揉まれながらも、死力を尽くしてその場所に踏みとどまっているのだ。
五体が痺れきり、鼻から熱い吐息を吐き出し、全身に吹き出た汗を四散させ、悶絶寸前に追い込まれようとも、速女は耐えぬいているのだ。
胸は絶息せんばかりに、荒荒しく上下して呼吸を繰り返し、太ももの内側の筋肉は断末魔の痙攣すら見せ始める。
もうダメ、もうダメ、もうダメなのよ...!!!
・・・ふふふ、そう、イクのよ。イッてしまうのよ・・・
あああ、くふー、むふ...
顔を真っ赤にし、苦悶の汗を滴らせながらも崩れゆく情感と懸命に闘う速女。
快楽源からは、女の濃厚な甘い体臭が立ち上る。
それでも淫獣は容赦なく悶死寸前の女体を責め嬲るのだ。その度に、「くひ」とか「うぐっ」と動物めいたうめき声を、塞がれた口から断続的にもらし、汁まみれの裸身をくねらせるしかない速女。火照りきった蜜壷と肛門にねじ込んだ触手を絶妙なタイミングで出し入れし、なおも化け物は速女を責めたてていくのだ。
薄皮一枚隔てた前後の穴をいたぶり抜かれる過酷な責めの前に、気を失いそうになるのを必死に我慢する。
秘部からは、水を啜るような恥ずかしい音が聞こえてくるが、そんなことを気にしている余裕は今の速女のはもちろんない。
・・・こ、こわれちゃう、こわれちゃうわよぉ・・・
顎をのけぞらせて、苦しげにうなる速女...
その鋭角的な首筋のライン...身体の筋肉の痙攣にも似たひくつきは、なんとも扇情的であると同時に、速女の苦境を滲み出しているのだ。
もう残された時間は少ない....
時折噴射される精液で、内部までドロドロに汚された子宮。巧みな触手の動きで既に潤みきっているそこを、これでもか、これでもか!と力強くえぐり抜かれながら、同時に膣壁を擦りつけられた繊毛によって掻きまわされていくのだ。それに子宮内部には、伸びた触手とその先の鞭毛によって蹂躙の限りが加えられる。これで感じないわけがあろうか?媚薬に狂い立った身体で、何が出来ようか?快楽の霞がかかった頭で何の策が練れようか?
細腰をがくがくゆさぶり、その破滅的な悦楽を振り切ろうと死力を尽くす。
が、雁字搦めに触手に巻き突かれ、その触手に身体中を撫で回されながら、速女はますます窮地に追い詰められていく....
ふひぃ、か、感じてしまう..く、狂ってしまう...!!
「あふっ..くふ...ほふぉっ..はぁぁくぅぅぅ!!」
塞がれた口からは咆哮にも似た喘ぎ声を立て続けに漏れている。
しかし、頑強に最後の悦楽が炸裂する事だけは拒みつづけているのであった。
たった一つの自由もままならない身体で、数十、いや数百本もの触手と戦い続ける速女。圧倒的不利な条件下での戦いである。
感じながら、ゆっくり狂いながらも速女はまだ最後の希望までを捨て去ってはいなかったのだ。
ま、まだ...まだ...
・・・へぇー、これだけしても、まだ突っ張る気? ふふふ、かわいいわぁ。あ、そういえばこんなところが遊んでたわね! 気が遠くなるくらいたっぷりしごき抜いてあげるから!・・・
そう”言う”と同時に、速女の猛りきった女陰棒に数本の触手がからみついていく。
もちろん触手の先端にはあの嫌らしい口が見える。そのまま速女の最大の弱点に十重二十重に巻き付いていき、その口で女陰棒に食らいつくのだ。肥大化し、極大まで性感が高められたそれを、情け容赦無く舐め、しゃぶり、噛み、啜り、ねぶり尽くすのである。もちろん絡みついた触手は、確実に性感の中枢を揉み扱いていく。
!!!
身体の芯、官能の中心を揉みぬかれる恐ろしいばかりの快感。湧き上がるでもなく、あふれ出るのでもなく、ほとばしるのでもなく、それをなんと表現したらいいのだろう?
あまりの快美感に感覚が麻痺し、それは痛くすら感じられる。苦しくすらある。実際そうなのだ。今の速女にとってみれば、間違いなくそれは責め苦であるからだ。
色地獄、肉の煉獄...そんな呪わしい言葉が似合う忌まわしき場所に囚われた速女...そこでこの世にあらざる悦楽を与えつづけられている...
肉体に群がる無数の触手。乳房を締め上げ、乳首をこねくり回される。身体を埋め尽くす巨大な触手。身体を狂わせる強烈な催淫薬。そして急所に食らい付き、扱きたてる複数の触手...
上気しきった体に、苦悶の生汗がぬめ光る。口からは、飲みきれない淫液と共にだらしなく涎を垂らし、限界を知らせるシグナルのごとく、両手のひらが閉じたり、結んだりを繰り返している。
速女は苦しみ抜いていた。このまま壊れてしまいたかった。もう耐えきれるものではなかった。女である限り絶頂を迎えないはずはなかった。
たぶん気がおかしくなったほうが余程楽かもしれない。ここに来てもなお強靭な粘りを見せる精神が恨めしくもあった。この苦しみ終わらせたい。もうここから開放されたい...
しかし...しかし...しかし...
最後の最後で何かが引っかかるのだ。
自尊心? 里で名をはせたくノ一として?いえ、もっと根源的な何か...そう人間として、いえ、この世に生を与えられたものとして...
これ以上の屈辱的な最期があるだろうか?醜悪極まりない化け物に体中を撫で回されて、その快楽の前に屈伏する...そんな馬鹿な!
それでは犬畜生にも劣る振る舞いではないか?
こんな惨めな最期を迎えるわけにはいかない..こんな無様な最期は絶対に嫌なのよ!!!
その一点において、速女の精神はなおも超人的な粘りを見せていたのである。
肉体は完全に崩壊している。頭も半分は官能に蕩かされているはずである。
それでもなお、これだけ頑張ることができるとは...
その頑強さには、”速女”もやや舌を巻く。
・・・まだ堕ちないというの..これは思った以上の素材かもね。少し、驚きだわ...これだけ延々と責めつづけられて、なおもイカずに耐えられるとは...身体を責めるだけではダメということなの?..やはり精神を直接叩かねば・・・
”速女”は次の手を考える。
フッ
一瞬の間を置いて、速女を言いようの無い漆黒の闇が包んでいく。
のっぺりとした何かが、まず目の前を塞ぐ...何も見えない..
続いて、無数の触手の蠢く音が聞こえなくなる...何も聞こえない..
更に触手から吐き出されるいやらしい体液の匂いと、自分の秘淵から滴り落ちる花蜜の香りが消える...何も匂わない..
あれだけ身体中を這いずり回っていた触手に触られてるという感覚が無くなる..何も感じない..
まるで、光も届かない深海の中を、位置感覚もつかめないまま浮遊させられているような不思議な感覚であった。
外部からでは、これほど完璧に封じ込めるのは無理である。
速女は、その内部からありとあらゆる感覚自体を次々奪われてしまったのだ!
視覚、聴覚、嗅覚、触覚...
全ての感覚が毟り取られてしまう。
な、なによ、これ...はぐぅぅぅ!!!
しかし、忘れたころに甦るたった一つだけ残された感覚...
それが性感だ。
そう、快楽をむさぼる力だけが無残に残されてしまったのだ。
例え触覚が無いとしても、与えられる快楽だけはきっちり頭の中へ吸い込まれるように入ってくるのである。
世界の暗転。いったい何が...
考えるまでもなく、頭の中に”速女”の声が聞こえてくる。
・・・ふふふ、あなたの感覚は全て遮断させてもらったわ。もう何も見えないし、何にも聞こえないし、何も感じないでしょう? いえ、性感以外はね...クスッ、五感全てを性感に振り向けたのよ。いまや肉体を飛び越えて直接あなたの精神に快楽は響き渡っているはず。どう?今まで以上に集中して快楽を味わえるでしょ。そりゃそうよねぇ、それ以外何も感じられないんですもの。うふふ、もうあなたを守るものなんて何もない...その精神力ひとつで、与えられる膨大な快感と戦わねばならないのよ。どんなに訓練を受けた者でも、完全な無感覚状態に放置すれば確実に気が狂ってしまうわ。ましてや、快感だけを与え続ければ一体どうなるかしら? 淫乱な雌犬に生まれ変わるのも時間の問題ね・・・
その言葉は速女にとって、もはや最後通告だった。
ああ、ここはどこ...何もわからない...何もわからないのよ!!!
そう心の中で叫びたてている間も、着実に快感は頭の中に染み込んでくるのだ。
振り解こうにも、振り切る対象すらわからない...実体の無い敵相手に闘えるわけもない。戸惑う内に頭をしっかりつかまれて、快楽という麻薬をたっぷり注ぎ込まれてしまう。
逃れられない、何もできないのよぉぉぉぉ!!!
体中から大量に吐き出される肉のあえぎ、きしみ、苦しみ...
それらが速女の頭の中に既に殺到しているのだ。
眼も見えず、耳も聞こえない暗闇の中で、唯一感じ取れる感覚がその膨大な快感のみという吐き気を催すような最悪の状況。
到底処理しきれないくらいの量にもみくちゃにされながらも、何とか精神の平衡を保とうと努力はしている。自我を失うまいと悪戦苦闘しているのだが...それも無駄だ。
脳髄の細胞のひとつひとつを埋め尽くしても更に流れ込んでくる圧倒的な官能の粒子。その一つ一つが、逃れなれない快楽の楔を刻み込んでいくのである。しかもその数は絶えず増えつづけている。入ってくるばかりで逃げ場がない閉ざされた迷路。必然狭い頭の中をぐるぐる回り、ひしめきあいながら、速女の疲弊しきった精神を責めたててくるのであった。
もうどうしようもなかった。
限がないのだ。
倒しても倒しても、なおそれ以上の数が襲い掛かってくる。
肉体という鎧を毟り取られ、心の防壁まで剥ぎ取られた速女の精神でその全てを受け止めることは、到底無理な話だ。
もう、耐えきれない!!!
あぐぅぅぅ!!
遂には自我の崩壊が始まる。
矢尽き刀折れふらつく速女に、一斉に敵が飛び掛る。
あああ...もう、もぅ、い、いくぅぅぅぅ!!!!!
最期の時を告げる熱く苦しい喘ぎ声が搾り出されていく...
自分を囲む全てが歪んでいく。全てが溶け落ちていく。
五感の全てを奪われながらも、それだけは感じ取れる。なぜかはわからない。
自分の存在自体が希薄になっていく。自分と世界を象る境界がぼやけていく..
ああ、もう、もう終わりなのね...もう駄目なのね...
いよいよ自分の最期を覚悟していく。
かつて幻老斎が言ったとおり、自分の全ては憑依され、奪い去られてしまうのだろう。
しかし...これで最期の瞬間を迎えてしまうという屈辱をかみ締めながらも、どことなく安堵感を覚えてしまう自分。戸惑いながらもそれを受け入れてしまう自分...
優しい温もりに、ゆっくりと包まれてくような安心感さえも感じてしまうのだ。
そうよね、ようやくこの苦しみも終わるのね...もう開放されるのね...もう苦痛を耐えなくてもいいのね...
あまりにも、長く耐え忍んだ時間...もう心体ともにボロボロに草臥れきってしまった。疲れきってしまった...
安らぎの時空へと、その身を委ねていく...
羽毛がたっぷり詰った布団に、背中から倒れこんでいく..
疲れた...
もう、あたしの負けね...
無感の闇の中で、速女の精神は砕け散った。
それで全ては終わったはずだった。でも、何かが違った。
そう...なぜ、この地獄は続いているの!!
世界は消えていない。何も変わっていないのだ。
全ての感覚が奪われたまま、研ぎ澄まされた性感はまだ活かされている。
一度達することで解放されると思っていた色地獄。
希望も苦悩にも終止符が打たれるのだ思っていたのに...
しかし現実は違っていたのである。
今も膨大な量の官能のが、流入し、か細い体の中で渦巻いているのだ!
あぐぅぅ、な、なぜ、なぜなの...?
ど、どうして終わらないのよ...負けまで認めたというのに...どうして!?
どうして終わってないのよぉ!!
ああ、ま、またいっちゃうぅぅ!!! こ、こんなことってぇぇぇ!!
一度イクことで、歯止めが効かない体は、すぐさま次の絶頂を迎えてしまう。
快楽以外、何も感じられない頭の中に、”速女”の声が響きわたる。
・・・どう?気分は? 今までお預けを食っていたものが味わえて、さぞかしすっきりしていることでしょうねぇ。気持ちいい? あなたはわからないかもしれないけれど、こんなに派手に潮を吹いちゃって...はしたない事。うふふ、でもいいのよ。遠慮無くやっちゃって。あなたはもう、それしかすることがないのですから...
ど、どういうことよ..は、早く止めて...もう充分だわ...ああっ!!また!!
・・・そうはいかないのよ。さっき言ったわよね。『あなたがイケば、その精神は永久に封印される』って...つまりあなたはこの暗闇の中に閉じ込められたの。身体に刻み込まれた快楽と共に永遠にね・・・
そ、そんな!!ひ、ひどいわ...やめて.うぐっ!!..もう、お願いだから...あぎぃっ!!!! い、いくわ、いっちゃうのよ!!
・・・もう手遅れだわ。あなたは我慢できなかったんですのも。勝負に負けたんですもの。もう元に戻ることは不可能だわ...この美しい体はあたしのもの。ありがたく戴いておくわ。これからは、あたしが速女として生きていってあげるから、安心してそこで快楽をむさぼるのよ・・・
と、止まらないのよ、い、イク、またイクわ...く、苦しい...あひぃぃ、あぐぅぅぅ!!!!
・・・幾らイッてもかまわないわよ。もう肉体、つまり実体のあなたは存在しないわけだから、疲れるなんてことも知らないし、汁が枯れてイケなくなる心配をする必要もないのよ。この暗闇の中で永遠にイキ続けるだけ。正確に言うと、イクという感覚だけを持ちつづけるだけ・・・
ひぃぃぃぃ!!そんなことって..でも、き、気持ちいいのよ、死ぬほど気持ちいいの...ああ、またイク、いってしまうわぁ・・・
・・・たっぷりと逃れられない快感を味わいなさい。繰り返し繰り返し休み無く訪れる絶頂。それがゆっくりとあなたの心を蝕んでいってくれるから・・・
あぎぃぃ、き、気持ちいひのぉ..く、狂う、ねぇ、狂っちゃうわ!!!イクぅぅぅ!!!イ、イッちゃう!! くふっ、ああ、気持ちいいぃぃぃのぉぉぉ..た、たまらないわぁぁ...ひぃぃ、狂っちゃうぅぅぅ!!!!..ああ、あたし、おかしくなってしまったのぉぉぉ?!!!
・・・クスっ、あなたはまだ狂ったりしてはいないわ。あなたが狂うのはこれからよ・・・
その言葉を最後に、”速女”は速女の前から姿を消した。